
エコノミスト誌の最近の特別レポート:「グローバルサプライチェーン」は、多国籍企業とそのサプライチェーンに影響を与える多数の変化を浮き彫りにしています。*企業が収益性の向上を模索するにつれて、エンジニアリング部門と調達部門の役割は、サプライヤーやアドバイザーと協力して結果を出す方法を調整することが重要になってきています。
たとえば、エンジニアが部品の組立てに必要なパーツやプロセスの数を減らす有効なソリューションを見つけた場合、コストを劇的に削減する機会が存在します。然しながら調達部門が近視眼的に部品単価引き下げに焦点を合わせている場合、一つのオプションが複数のパーツやプロセスとそれに伴う大幅なコストを排除するが、よく似た安価な他のオプションではこのような利点は得られない、ということを調達担当者は考えられないかもしれません。この近視眼的な見方は、収益性の向上と株主価値の増加の機会を逃す可能性があります。
これは現実の世界では起こらないのでしょうか、それとも起こるのでしょうか?
例えば、調達担当者が以下のように4つのパーツを担当しているという架空のシナリオを想像してみてください。
ボルト - @4.28円 ($0.04)
タップ済みナット - @2.14円 ($0.02)
ロックワッシャー - @1.07円 ($0.01)
接着剤 - @1.07円 ($0.01)
部品単価合計 = @8.56円 ($0.08)
そしてこれら全てのパーツについて、それぞれの単価の5%引き下げを達成することによって担当者にボーナスが支払われる、と想像してみてください。彼らの目標は:
ボルト - @4.07円 ($0.038)
タップ済みナット - @2.03円 ($0.019)
ロックワッシャー - @1.02円 ($0.0095)
接着剤 - @1.02円 ($0.0095)
部品単価合計 = @8.14円 ($0.076) 5% コスト削減
しかし、ナットのタップ処理、ロックワッシャー、接着剤の必要性を排除する純正TAPTITE®スレッドローリングファスナーという、より優れた技術を含むソリューションがあれば、彼らはその可能性に興奮するのではないでしょうか? そしてそのコストが以下のようだったらどうなるのでしょうか?
ボルト - @4.82円 ($0.045) ⇨ 12.5% アップ
めねじ無しナット - @1.61円 ($0.015)
ロックワッシャー - @1.02円 (廃止)
接着剤 - @1.02円 (廃止)
部品単価合計 = @6.42円 ($0.06)
⇨ 合計コスト25%削減! 但し、継続部品のコスト削減はゼロ
これで調達担当者にボーナスは支払われるでしょうか?おそらく無理でしょう。
でもちょっと待ってください、この例はプロセスの単純化、在庫の削減、SKU(在庫管理の最少単位)とERP(統合基幹業務システム)の簡素化、不動産占有面積の削減をはじめ他の多くの節約領域から得られるコスト削減方法とは明らかに異なります。純正のTAPTITE®スレッドローリングファスナー製品群によって提供される利点は、アセンブリー内のパーツを排除することでコストを削減します。問題を別の方法でフレーム化することで、より安価な部品への変更ではなく、より優れたトータルソリューションの活用により、最終的には大幅にコストを節約できます。
この例では、エンジニアリングと調達が新製品の設計とバリューエンジニアリングの両方で緊密に連携することの利点も強調しています。これらのグループは、顧客と市場のニーズ、および新製品と既存製品のコストと価格戦略を十分に理解することで、望ましい結果を達成するために利用できるすべてのオプションを検討できます。手持ちの選択肢で利用できる唯一のツールが「サプライヤーから可能な限り低い価格を引き出すこと」しかない場合、大きな利益生み出すオプションは制限されます。コンポーネントとプロセス全体を考慮すると、エンジニアリングが最終製品のコストに与える影響は非常に大きくなる可能性があります。部品単価を中心とした縦割り思考は、実は逆効果になります。
要約すると、この単純なボルト締結の例は、バリューエンジニアリングと調達の相互作用について戦略的に考えることが株主価値の創出にどのように役立つか、の一例です。
一部の賢明なグローバルメーカーが採用している戦略のひとつは、製造のニーズを満たすのに十分なグローバルなライセンス製品を、非独占的ライセンシーから調達することです。
ライセンスプログラムは、一般商品市場における完全競争状態と、代替品のない完全独占状態を両極端とする競争範囲の中間に位置します。特定の製品を製造・販売する独占的なライセンスは、需要が高く合理的な代替品がない製品の単独ライセンシーにとって、ほぼ独占的な利益をもたらす可能性があります。逆に、ライセンス料やロイヤリティなしで考えられるすべてのライセンシーに発行される非独占的なライセンスは、一般商品化された市場構造をもたらす可能性があります。
その良い例が、主にDIN 7500 / ISO 7085 / SAE J1237のような国内規格またはグローバル規格を満たす製品に焦点を当て、ライセンス製品の使用を拒否する製造会社です。これは、組立てコストを引き下げる能力が重要でない特定の製品では機能する可能性がありますが、多くの部品とプロセスを排除できるスレッドローリングファスナーのような製品では機能しません。上記のような規格には、ライセンス製品の持つ優れた性能と仕様が含まれる場合がありますが、非ライセンス製品メーカーの最も性能の低い製品が含まれていることも考慮しなければなりません。その結果、規格には低性能製品と高性能製品の間の幅広い許容差が生じ、組み立てプロセス、最終製品の品質、場合によっては販売後の保証やリコールのコストにばらつきが発生する可能性があります。
ライセンサーからの強力な技術サポートを備えた非独占的ライセンス製品にフォーカスした調達戦略は、最良の選択肢となる可能性があります。何故でしょうか?
エンドユーザーがあるライセンシーから非独占的ライセンス製品の供給を受ける場合、どのライセンシーと契約してもエンドユーザーはライセンサーから支援を受けることができます。ライセンシーは、独自の付加価値と競争的価格を提供することにより、エンドユーザーのビジネスを獲得するために他のライセンシーと競争します。ライセンサーとライセンシーは、用途開発、技術支援、トレーニング、品質保証、在庫管理ソリューション、及びその他のサービスやソリューションの形で、製品価格では簡単に説明できない付加価値をしばしばエンドユーザーに提供します。
賢明なエンドユーザーは、品質とコストを改善し、非独占的ライセンス製品のライセンシーと長期的な関係を築きます。これらのライセンシーはおそらく、独自の付加価値を持たないライセンス製品に投資せず、継続的なロイヤルティ費用を支払うこともなかったでしょう。多くの場合、彼らは顧客のビジネスを十分に理解しており、ライセンス製品に直接および間接的に関連する付加価値のあるアイデアを提供できます。 実績のある製品のライセンシーはより確立された企業である傾向があるため、多くの場合、グローバルに事業を展開し、多くのロケーシヨンで規格に合致した製品を生産する能力を持ち、サプライヤーとしてのリスクが最小化されています。
前述の例を思い出してみてください。TAPTITE®スレッドローリングファスナーにより、タップ、ロックワッシャー、接着剤が不要になりました。サプライヤーの付加価値が価格差を超える場合、そのサプライヤーとの取り決めを通じてこれらのアイデアに対価を支払うことは「グッドアイデア」と言えます。唯一の問題は、調達担当者が単独でサプライヤーと交渉し、かつ部品単価削減成果ボーナスがある場合です。そのエンドユーザーは、最高のサプライヤーにとって実は最も魅力のないクライアントになる、というリスクを負うことになります。アプリケーションエンジニアリングの価値を反映した調達ポリシーは、アセンブリーあたり3つの部品と4つのプロセスを排除し、ライセンスされたブランドファスナー1本に追加の0.005ドル(0.54円)を支払うことで、アセンブリーあたりの直接および間接コストを10ドル(1,070円)節約し、ファスナーの単価を0.002ドル(0.21円)節約する従来のやり方に比べて営業利益と収益をさらに大きく
向上させます。従来のやり方は「ペニー ワイズ、ポンド フーリッシュ」という諺(訳者注: 一文惜しみの百失い/安物買いの銭失い、に相当) があてはまりますが、製品設計、サプライチェーン、および調達では避けなければならないやり方です。
エコノミスト誌の特別レポート「グローバルサプライチェーン」*で指摘されているように、サプライチェーンは世界的な貿易の緊張のせいで過渡期にあります。賢明な経営者は調達をより戦略的機能として捉え、設計、生産技術、製造、及び信頼できるサプライヤーと直接連携して大幅なコスト削減を達成する、という知恵に気付き始めています。非独占的ライセンス製品のサプライヤーは、付加価値競争と価格競争の両方を通じてエンドユーザーの大幅なコスト削減を支援する強いインセンティブを持っています。経営者は、社内のエンジニアリングおよび調達の専門家と同様に、このようなライセンシーのリソースの活用を奨励するのが賢明でしょう。
*特別レポート: エコノミスト誌 (2019, July 11).